クラスター グリッサンド
is00舞台袖:起
夜、世界中に響く音がある。
月が歌う。
耳を澄ましても、
虫の音に掻き消される程、
或る晩、ふと思った。
自分以外に、誰がこの音に気付いているのか..?
そんな時は、あの海で交わした盟約が痛む。
幾度となく触れてみるが、やはり左目はない。
幼い頃の記憶もなく、自分が世界にとって
必要なのかどうかも分からない。
首に掛けたIDタグは、
本当に「過去」の存在を示す
あの日、悪魔に呼ばれて目を覚ました瞬間から、
名も無き俺の物語は始まった。
クラスター グリッサンド
is01第1幕
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第1幕 「悪魔のスケルツォ」
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第1章 「始まりの海」
目を覚ますと、悪魔が居た。
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第2章 「ンァットの笹舟」
東の海で無事だったのは奇跡的。
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第3章 「見習い
水先人 」
修業が終われば、悪魔は仲間の船に戻るらしい。
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第4章 「推定11という年齢」
記憶から引っ張り出せるのは、このオカシな連中とオカシな海だけ。
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第5章 「自分を知る作業」
首から掛けたタグには、幾何学模様が刻まれていた。
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第6章 「birth of sea beasts」
この海で多くの海獣が生まれる。
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第7章 「天に近付く」
舟は、海底火山の近くまで南下していた。
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第8章 「晴天のち小雨ときどき魚」
雨雲は海に恵みを齎す。
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第9章 「曇り空の下」
彼の笹舟は、2人が定員ギリギリだった。
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第10章 「接近警報発令」
トラッティ・ヲァィに、嵐を起こす海獣が戻ってきた。
is02第2幕
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第2幕 「東方のおとぎ話」
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第1章 「
筏 の上の聖人、再び」
サュクョリテ・セイラーの進言により、僕は別の船に移ることになった。
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第2章 「無人島」
嵐を避ける為に立ち寄った教会で、僕は約束の船を待った。
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第3章 「ルュッツ・ルーィディ〜ムャキ」
その
女性 は何匹もの海獣を引き連れ、沖に姿を現した。 -
第4章 「二代目という
役割 」
其々 が駒として機能することが大事だ、と彼女は云った。 -
第5章 「調教」
ルュッツが従える海獣たちは、よく手懐けられていた。
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第6章 「時に別れの朝もあり」
海で生きる獣は、命を繋ぐ為に争う定め。
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第7章 「昨日までの家主としての機能」
怪鯨 の背に住まう彼女は、今日から新たな師匠 を担うことになった。 -
第8章 「そして出会いの夜が来る」
僕は星空の下、海で生まれたばかりの獣を拾った。
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第9章 「小さな野生」
経験豊富な師は、幼い盲目の海獣を "マリオット" と名付けた。
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第10章 「海賊島上陸」
その町は、幽霊たちで賑わっていた。
is03第3幕
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第3幕 「目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声」
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第1章 「海賊島の主」
アシッドは、僕の将来について尋ねてきた。
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第2章 「予感が空を覆う」
ナディ島上空は真っ白な雲で一杯になった。
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第3章 「我先に」
船渠 の外に繋いであった凡ての船舶が、島を出た。 -
第4章 「海上教育委員会」
雲の上から、荘厳なラッパの音が響く。
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第5章 「
船上 に降り立つ」
超教師 に決定事項を伝えにきたようだ。 -
第6章 「畏怖を纏いて」
十数台の大型船が、遠巻きに僕らの
鯨 を見守る。 -
第7章 「異端の護送」
彼女は指導に逆らい、意見を述べた。
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第8章 「持ち帰り協議」
僕らは、ナディ島沖で3日間待った。
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第9章 「特別措置」
ルュッツのこれまでの功績が認められ、一年の猶予が与えられた。
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第10章 「目指すはル・ラクフララ海」
北の海を回って、指定された "保護局" に向かう。
is04第4幕
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第4幕 「ツァラトゥストラはかく語りき」
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第1章 「船旅の始まり」
ここでは旅人をリョセル、山岳遭難者をリャスル、海難漂流者をリュトルと云う。
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第2章 「北へ」
強制水先区を抜けると、海獣たちの影が一気に減った。
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第3章 「メシェェエ海」
何もない黒い霧の立ち込める場所を過ぎた。
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第4章 「黒と白の獣」
海中から、12の巨大な影が押し寄せた。
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第5章 「reunion in the north sea」
委員会の案では、北の海を越えられなかっただろう。
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第6章 「進む道を選べ」
海で命を落とせば、委員会の決定に従わずに済む。
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第7章 「別れる前に海に礼を」
師は僕の左目を、マリオットに差し出した。
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第8章 「古より最も偉大なる者の住む城」
崖っぷちに建つ、古びた建物が見えてきた。
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第9章 「委員会からの通達」
無精髭の男が、僕を出迎えてくれた。
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第10章 「リュトル」
師傅 リョセルは "そんな仮名 のままで良いのか?"と笑った。
is05第5幕
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第5幕 「7つの封印の書」
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第1章 「城の主18」
彼は、リョセルより随分若い青年だった。
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第2章 「
隻眼 」
左目のない僕を、レジェンダリィは心配してくれた。
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第3章 「アイデンティティ解読」
師傅 によれば、擦り切れていない部分は判読可能だという。 -
第4章 「個別の音」
僕はIDタグの刻印から "ハルト" という正式な名前を貰った。
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第5章 「彼はそれを郷愁と云った」
師傅 のグダグダな指導で、3種の文字の読み書きを習い始めた。 -
第6章 「居候としての日課」
レジェンダリィを手伝い、城を片付けることにした。
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第7章 「或る昼下がりの囁き」
納戸の方から、ヒソヒソと話す声が聞こえた。
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第8章 「封じられし図書館」
余りに重大な書物を収める為、やってきた者にしか門戸を
開 かず。 -
第9章 「マニア向け蔵書」
書庫の精が見せてくれたのは、G.アグリコラという人の著書だった。
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第10章 「別世界の文字」
館内でレジェンダリィと鉢合わせた時、『金属について』の新たな情報を得た。
is06第6幕
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第6幕 「憂鬱なセレナード」
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第1章 「季節を四周」
やがて俺は "ハルト" の意義を探り始めた。
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第2章 「レジェンダリィのレジェンダリィたる所以」
簡単な
遣 いを引き受け―― -
第3章 「研究所」
レジェンダリィからの届け物を渡した。
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第4章 「大陸の現状」
憂鬱 の分布研究について、熱心に語る博士。 -
第5章 「未踏の
泥濘 」
記録上、誰も足を踏み入れたことのない
冥 き場所。 -
第6章 「発生源と推測される」
しかし、ウ・クラ近隣と遠方で、弊害に顕著な差はない。
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第7章 「師の言葉」
"一つでも歯車が欠ければ、器械は壊れる"
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第8章 「海と
陸 の違い」
思い付くのは、命の
在 り方。 -
第9章 「濃度測定キット」
かつてレジェンダリィが行っていた研究を引き継ぐことにした。
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第10章 「
歯車復元計画 」
セーテアに用意して貰った
旅嚢 には、十分な食糧が詰められていた。
is07第7幕
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第7幕 「死の都」
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第1章 「ウ・クラ行路」
ミョミョセ街道に沿って歩くのが最も近い。
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第2章 「沼ヘビ」
空を見上げた彼が、救命衣をくれた。
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第3章 「街道の魔物」
深い朝霧が雨粒になり、やがて濁流となって襲ってきた。
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第4章 「湖を越えて」
目を覚ました時、俺は街道から北海へ出ようとしていた。
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第5章 「村」
師傅 から預かった通行証のお陰で、王の居る村で丁重に扱われた。 -
第6章 「そして誰も...」
常闇の地へ向かい、帰ってきた者はいない。
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第7章 「
旅嚢 の中身」
調査キット以外で無事なのは、ヘイ・ジャムの大瓶だけ。
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第8章 「夜を待つ」
どうせ暗闇なら、陽の高さは関係ないだろう。
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第9章 「北極星を辿る」
数メートルも行くと、静寂を覆し、大勢の声が聞こえてきた。
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第10章 「街」
目の前に、数十もの建物群が現れた。
is08第8幕
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第8幕 「最初のワルプルギスの夜」
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第1章 「不帰の客」
街を歩く人々は白か黒、どちらかの衣装を着ている。
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第2章 「隻眼の死神たち」
黒装束の男が、不審そうに近付いてきた。
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第3章 「万物を崇めよ」
ェアと名乗った男の家に招かれ、この街についての話を聞いた。
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第4章 「息を引き取る者たち」
どうやら黒装束の連中は、就労資格を持っているらしい。
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第5章 「大陸教育委員会」
この街は、第一次レジェンダリィの死後、委員会の指導によって整備された。
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第6章 「智の集まる場所」
年に一度開かれるという、第一世代の集会を見に行った。
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第7章 「白装束」
かつて大陸にあった命は、死神によって回収され、此処に集められる。
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第8章 「鬼籍に
入 る」
ニャリスと呼ばれた白装束の女性が "
凡 ての命が奇跡に在 る" と笑う。 -
第9章 「第一世代の
灯 」
彼らが手にする蝋燭は、後続の世代に比べ、それはそれは大きなものだ。
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第10章 「明かり消ゆ時、再生の門現る」
死神によって此処に引き取られてきた者たちは、やがて土に還ってゆくらしい。
is09第9幕
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第9幕 「4つの最後の歌」
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第1章 「
黒き大広間 」
街の明かりは、陽の光と変わらないくらい眩しい。
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第2章 「一週間続いた騒ぎ」
祭の輪が、少しずつ海沿いに移動していく。
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第3章 「1つ目の歌」
密やかに続く、黒装束の仕事振りを称えた。
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第4章 「2つ目の歌」
その歌は、決して戻れぬ場所を懐かしむもの。
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第5章 「3つ目の歌」
かつて残してきた者たちを案ずる歌。
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第6章 「4つ目の歌」
最後の歌は、一年後の再会を約束するものだった。
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第7章 「潜む闇」
歌が止むと、視界の端から暗闇が押し寄せてきた。
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第8章 「
彼 の人の声」
「こんなトコで息を引き取られるんじゃないよ、あの子に宜しく伝えておくれ」
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第9章 「墓」
視界ゼロの中を歩き回っていた俺は、誰かに背中を押され、冷たい北の海に落ちた。
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第10章 「左目で捉える深海」
海中から見上げる青と、海底へと続く深い黒が世界の
凡 てだった。
is10第10幕
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第10幕 「運命の力」
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第1章 「聞こえくる咆哮」
北の海には多くの獣が棲んでいる。
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第2章 「深海より浮かび上がる巨大な影」
見えない筈の左目が、水面に浮かぶ俺の影を捉えていた。
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第3章 「東の空の星座」
気が付いた時、俺は見慣れた星空の下に居た。
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第4章 「忘れ得ぬ我が家」
師の巨大な
鯨 の上で、まだ息があることに安堵した。 -
第5章 「盲点」
北の海で俺を助けてくれたのは、
隻眼 の海獣だった。 -
第6章 「視覚を持つ者」
無間 地帯に足を踏み入れるには、条件がある。 -
第7章 「影として生きる命」
師傅 に面会する為、マリオットと共に西の海を目指した。 -
第8章 「固有の支線」
祭でのェアの助言を思い出し、本格的に地理学を学ぶことにした。
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第9章 「大陸と海の調停役」
未だ謎に包まれる教育委員会についても調査する必要がある。
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第10章 「マニアへの道」
人は、"こうあってほしい" というフィルター越しに物事を見ようとする。何処かの時点で、別の視点も必要になるだろう。
クラスター グリッサンド
is11舞台袖:結
城に戻ったが、レジェンダリィは留守だった。
相棒のダキによれば、沼ヘビの王に呼ばれて調査に出ているという。
俺は、何処かでサボっている筈の
一階の居間にも、二階の部屋にも居ない。
最後に、屋上のドアを開ける。
......居た..。
本棚で出会った
あの闇の中にあるという事実を知った今――
彼こそが、影のレジェンダリィなのだと分かる。
これまで片目で見てきた世界とは違って見えた。
左目は常に、深海を見詰めているのだ。
そして、ぼんやり空を眺める無精髭に声を掛けた。
"あの方から、
クラスター グリッサンド
is12舞台裏
"靴下くらい、自分で片付けたらどうだい?"
...だそうです。
"Gott sei Dank.."
by Diethard Crüger